つ い の 棲 家


瀬本明羅


娘が 父の日にプレゼントしてくれた 野草が 今年も咲きました。 狭くて薄汚れたプランターの中で 時季が来ると忘れずに咲いて ここにいるよと知らせます。 植物は時の流れに逆らわないし 今いるところが自らの棲家と思って 屈託することもなく生きています。 たとえどんな環境であっても ここしかないし ここで一生を終えようという見えない意志を 私に伝えます。 犬は 色褪せた赤い屋根の小屋を 何の疑いもなく ついの棲家だと思い 体を ゆったりと横たえ 安らかな眠りに入ります。 鳴くことで ここにいるよと知らせます。 野草の家財は一本の支柱。 犬の財産は飯碗一個。 それらを包む青い空。 それを見ていて 私は急に哀しくなりました。 もしかして カーンと響きわたる 大きな宇宙を見たのかもしれません。