『一期一会』 



 思いがけず稀有な瞬間と出会うことががある。                    先日、公園を散策していたときのこと。樹木の茂る道のベンチに腰掛け、私は、一斉に 芽を吹きはじめた若葉のエネルギーに圧倒されるというか、むしろ唖然とした面持ちでい た。                                        そのとき、父親と連れだった一人の少年がやって来て、私の目の前で、手にしたシャボ ン玉を吹き上げた。                                 たちどころに、無数のシャボン玉が空に舞い上がった。                少年は、どうだと言わんばかりに私の方を見遣ったので、私は、ほお〜凄いなあ〜と賞 賛の声を送った。                                  少年と父親は、すぐさまその場を立ち去って行った。                 私は、シャボン玉の流れて行った、後方の茂みに何気なく目を運んだ。         私は、目を瞠った。たったひとつだけシャボン玉と木の葉がランデブーをしていたので ある。そして、驚いたことに共に風にそよいでいる。しかもいつまで経っても離れない。 おそらくミクロン単位での結合とタイミングである。絶妙としか言いようがない。五分ば かりして少しずつシャボン玉の空気が抜けはじめ、表面の光に皺が滲みはじめた。やがて 光は消える。                                    『一期一会』真っ先に浮かんだのは、この言葉である。                うたかたには違いないが、マクロ的に見れば、この宇宙における地球の誕生もそうであ るし、ひいては、この私の命もそうである。私と契りを結んだすべてがそうである。    そんな実感を、この事象の向こうに見た気がしたのである。            


写真と文:村上 馨

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