『夜明け前の出漁』 




宍道湖に沈む夕日は美しいことで、つとに有名ですが、宍道湖の朝焼けにはまた 違う風情があります。                           あたりはまだ薄闇。東の空がうっすらと紫色に染まり、少しずつ色を変えていく 中、一艘のシジミ取りの舟が静かにこぎ出して行く。             微かだが、冷気を孕んだ風が、湖面に小さなさざなみを刻む。人も街もまだ眠り のまっただ中。小舟と漁師の人影がシルエットとなり、ゆるやかに流れて行く。 やがて東の空が徐々に明るみはじめ、見る見る色を変え、小舟が沖合にこぎ出し て見えなくなる頃には、日も昇りはじめている。               夜明け前から日の昇るまでのわずかな時間ですが、この小舟と漁師のシルエット とほんのり赤紫に染まりはじめてからうっすらと白んでいく朝焼けの変化が絶妙 で実に絵画的というか叙情的な風景を醸し出します。             美しいものには何がひそんでいるか、そんなことをそっと教えてくれそうな、そ んなメルヘンがありますね。                       


写真:村上 馨 (島根県斐川町の宍道湖岸から撮影)


[バックナンバー](過去トップページに掲載したグラビア写真集です)