死滅した河川 瀬本明羅
斐伊川支流の旧新川。
今は水死者の霊を慰める法華塔しか当時をしのべない。
(島根県簸川郡斐川町直江で。昭和48年著者撮影)
壮大な石英砂群の堆積に
天保の開削人夫の
埋もれた声を聞く
湖岸に溢れた砂は
沃野と化し
ほとばしる水音は
歴史の中で消された
<流緩に水清し、舟筏通ぜず>
その斐伊川大派流も
今は人々の口にのぼらない
破れた法華経堤防を
出雲結 大川倉
連台で固めた
あの時のことも
新川川床の
光を放つ砂粒の死者たちは
かたくなにもだすのみ
「山崩し」の歌声を残して
廃川はひたすらに
川敷に重い
昭和十五年一月のことだ
昭和48年7月14日 中国新聞掲載