「イタリア旅物語」の連載開始!!────掲載誌『私の時間』(ヒロ・コミュニケーションズ発行)

 第1回 「ローマの休日」のローマ (同誌12月号・松本侑子作)を読んで

                                                      瀬本あきら
 
 『私の時間』(ヒロ・コミュニケーションズ発行)という雑誌を買ったのは今回が最初 である。サイズが小さいので書店の書架から探し出すのに手間取った。しかし、このく らいのサイズが女性のバッグに入れるのに適当だということが手にとってよく分かった。 サブタイトルに「女を磨く本」と書いてあるのもなるほどと思った。  ページを開くと、松本氏撮影の映画に因んだ名所のスナップ写真がたくさん載せてあ って、旅には縁遠い私も旅行の楽しみを存分に味わうことができた。  第1回は「ローマの休日」(原題:Roman Holiday)の舞台のローマの街を取り上げて いる。  この映画は、1953年制作のアメリカ映画である。1953年度のアカデミー賞において、 主役の新人オードリー・ヘップバーンがアカデミー最優秀主演女優賞を、脚本のイアン・ マクレラン・ハンターが最優秀脚本賞を、衣装のイデス・ヘッドが最優秀衣裳デザイン 賞をそれぞれ受賞した作品である。監督はかのウィリアム・ワイラー(William Wyler, 1902年7月1日 - 1981年7月27日)である。  私がこの映画を観た所は私の学生時代にリバイバル上映されていた映画館なので、制 作後20年近く経ったころであるが、ペップバーンのまれに見る完璧な美貌にうっとり した記憶が今でも鮮明に残っている。  この作品で紹介されている名所は、スペイン広場、パンテオン、コロッセオ、真実の 口など枚挙に暇がない。松本氏は美しい写真をたくさん掲載し、読者の旅心を心地よく 刺激している。  またこの映画からは、ヨーロッパの工業製品としてスクーターのベスパ、小型車のフィ アットを登場させたり、新しいファッションモードを紹介したりしていて、商魂たくま しい一面も窺い知ることができる。  松本氏は映画のあらすじを紹介しながら、各シーンの舞台を丁寧に解説している。 私も『Wiki』の「あらすじ」紹介をベースにストーリイを振り返りたいと思う。  ヨーロッパの某国の王女アンは、ヨーロッパ各国を表敬訪問中であった。最後の滞在 国であるイタリアのローマで、過密なスケジュール、疲労感と自由のない生活への不満 により、ついにアンはヒステリーを起こしてしまう。私は、最初の場面でアンが靴をド レスの中でぬいでしまい慌てるところが特に印象に残っている。  その夜、密かに城を抜けだした王女は、直前に打たれていた鎮静剤のせいで無防備に も路傍のベンチでうとうとしはじめる。うわごとのような言葉を言い出して、なんだか 呂律がまわらなくなったような感じになるのである。そこに通りかかったのが、アメリ カ人新聞記者のジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)だった。見かねて介抱する うち、いつの間にか王女はジョーのアパートまでついて来てしまう。  翌朝になって彼女の素性に気づいたジョーは、王女の秘密のローマ体験という大スク ープをモノにしようと、職業を偽り、友人のカメラマンであるアーヴィングの助けを得 て、どうにか王女を連れ歩くことに成功する。アンはまず美容院で髪の毛を短くし、ス ペイン広場でジェラートを食べ、ジョーとベスパに二人乗りしてローマ市内を廻り、真 実の口を訪れ、サンタンジェロ城前のテヴェレ川でのダンスパーティーに参加して…。  その様子をアーヴィングが次々にスクープ写真として撮っていくうち、永遠の都・ロ ーマで自由と休日を活き活きと満喫するアン王女とジョーの距離は次第に近づいていく のだった。(引用ここまで) 新聞記者の役はベテランのグレゴリー・ペックが演じている。最初は主役候補としてエ リザベス・テイラーが上がっていたらしい。しかし、助演のペックと監督のワイラーは、 新人のヘップ・バーンをこの作品で起用し、世界的な大女優に育て上げることに成功し たと言われている。また、ショートカットの彼女ヘアスタイルもこの映画から誕生した のである。まさに歴史に残る名作である。  私はその後「マイフェアレデイー」、「ティファニーで朝食を」等の作品も観ている が、好みから言うと、この作品が好きである。    ローマの休日 [DVD] FRT-096  Amazonのサイトより借用しました。  私はビデオでも何度もこの作品を観たが、一見お姫様の浮世離れした愛の物語のよう に見えるストーリイが、回を重ねるごとに奥が深い世界のように感じられた。これは不 思議な現象であった。  それは何故か。今、私は、松本氏の文章を読んでいてやっと気がついたのである。ポ イントは最後のアン王女の記者会見の場面である。一度だけの逢瀬の甘美さと決別し、 本来の世界に返っていく王女。その姿を記者席から見ていたジョンは歴史的な「スクー プを表に出さない」決意をするのである。  「美しい都ローマを背景にしたこの映画は、甘くせつないロマンスだけではなく、人 を信じること、その信頼を裏切らないこと、そこから生まれる人間のきずなの尊さを私 たちに静かに語りかけているのです。」  信頼、人間のきずな・・・・・・。この映画の真の奥深さはここにあったのである。  松本氏のこれからの連載に期待しています。  実はこの雑誌の紹介を昨年に行う予定でしたが、多事にかまけて出来ませんでした。 ご紹介が遅れて申し訳ないと思っています。