●詩集の紹介




森下かほる 著

詩集

『やさしさを
 胸に抱きしめて』

(2002年初版発行)

発行:文芸社

定価:1,050円

●タイトル一覧●

新たな旅立ち   幸せを呼ぶクローバーとともに   蜘蛛の糸に掴まって

心を見つめて〜たまには褒めてあげようよ〜   ショートヘア

優しい言葉を使おうよ   いつの日か   心の中の湖

言葉〜嘘は言葉の副産物〜   心のとげ   石ころの視点で

無題   私の心の救世主   心のつぶやき   やすらぎはすぐそばに

ひだまり   ねこやなぎ   降り注ぐ春の雨を見つめながら

向日葵   キリギリスの見た夢は・・・・・・   運命共同体のはずなのに・・・・・・

昇って行く露を見つめながら   雑草のように   雨〜悲しみや迷い洗い流して〜

時がゆるやかだった頃   ふわりと・・・・・・   猫の時間〜冬の陽射しをガラス越しにあびて〜

そっと心に寄り添って・・・・・・  雪の音   子供のように泣きたいけれど

あなたへ〜ありがとうを伝えたくて〜   忘れな草   無題   無題

未送信メール〜伝えられない想い〜   春の雪



●感想●                                瀬本明羅



 上記のタイトル一覧をご覧になってお気づきのことと思いますが、とても分かりやすい

詩ががほとんどで、現代詩の難解さ巧妙なレトリックからかなりな距離を保って書かれて

います。

それが本当に心地よい響きを醸し出して、すうっと心の底に染み込んでゆく快感を感じさ

せます。癒しでしょうか。素直な共感でしょうか。誰も待ち望んでいた世界が光を放って

私たちを包んでくれます。

 また、驚いたことに、この詩の一部は小・中学生の頃に書いたそうです。文芸社に委ね

た詩は数百にも及ぶと聞いています。この詩集を読んで、私は二つの物語をイメージしま

した。「あなた」に寄せる恋の物語、そして「私」の心のゆらぎの物語です。別れていて

も、離れていても、心の中では片時も離れることはない「あなた」。その人との密やかな

語らいであり、心の内のもう一人の「私」との語らいでもあると思いました。

 タイトルは「やさしさを胸に抱きしめて」です。「やさしい胸に抱かれて」ではないの

ですね。そこのところが切なさを感じさせます。心の疼き、たゆたい、そしてつまずき。

その過程を振り返り、振り返りしながら、昇華されたメッセージを詩の形で我々に懸命に

伝えようとしているピュアな作者が立ち現れます。その心の水脈は、金子みすゞの詩にも

通じるものがあると感じました。



   ねこやなぎ

   春がそこまで来ていることを感じて

   でも  まだ今が寒いことも知っている

   ねこなぎ

   だから  ふわふわのコートに包まって

   芽吹いてくるんだね


   パチンと   はさみで切られて

   あったか過ぎる部屋に

   飾られた”ねこやなぎ”は

   いつの間に

   春は通り過ぎてしまったのかと

   首をかしげているね



 私はあまりにも純粋で壊れそうな作者の想いを受け止めながら読み進めていきつつ、ふ

と大きな世界に出合いました。



   無題

   あの時

   離されてしまったと思い込んでいた

   あなたの手

   でも違っていたんですね

   見えないけど

   今もあなたの手は

   私を支えていたんですね

   あなたが私に言った

   すべての言葉が

   今の私を支えています

   すぐ  迷ったり挫けたりする

   私だけど

   あなたが私を

   信じてくれた

   今  それがわかったから

   私  やっと歩きだせます



 私は私自身の経験とダブらせて読みました。すると、この詩はとてつもなく大きな心の

世界を現出させていることに気づきました。見えない手、今は消えている言葉。それに気

づくことによって強くなる自分を感じています。普遍性はここにあると思います。私はこ

の作品で作者との一体感を完全な形で体験しました。ただ私は見えない手は複数の人の手

として解釈しましたし、言葉もたくさんの人の言葉として受け取らせて貰いました。

 私はだれもが分かるやさしい言葉で語りかけたい。そう作者は言っています。この詩集

が増刷となった理由もそこにあると思います。だれもが手の届くところで語りかけるその

詩作の姿勢が現代では尊いと思いました。



   雪の音

   雪が降ってるね

   窓の外も見ずに  あなたがつぶやく


   不思議そうな顔の私に

   雪の音が聞こえる

   あなたがそう言って  静かに笑った


   あれから何回

   雪の季節が廻っただろう


   雪が降ってるって気がついた時

   目を閉じる癖

   あの時からついたのかな?


   私には  雪の音  聞こえないよ

   そうつぶやく


   あなたの静かな笑顔が

   目の奥に浮かんだ


   舞い落ちる雪が  頬に触れて

   涙に変わる


   雪の季節が来るたび思う

   あなたが聞いた

   雪の音が聞いてみたいと・・・・・・



 「あなた」との物語を辿る「私」の感性は、時にこうした場面で快く刺激され自然な情

愛を全身に溢れ出させる。読者も自然に「私」と同化する。私の心を捉えた作品の一つで

す。

 この詩集を担当された文芸社のある編集者は、次のように仰っています。

 「もろくて移ろいやすい”気持ち”がきらめくような感性で綴られている。繊細な心の

持ち主がえてしてそうであるように、作者も相手や自分自身の気持ちの動きにことのほか

敏感である。敏感であればあるほど現実社会ではさまざまな障壁にぶつかる。作者はその

苦しみを知り尽くしている。その苦しみを言葉に置き換え、熟成させたものが本作品と言

えよう」


(追記)  この詩集は文芸社のHP(boon-gate.com)でも購入することが出来ます。ぜひご一読ください。  (書店はもちろん色々な書籍販売のサイトからでも注文できます)  文芸社のboon-gate.comのURL  http://www.boon-gate.com/