瀬本明羅
   枝条張って        樹々は        夏の間        虚空を掴んでいた    その腕は        あまりに多く        夢を掴みすぎたので        悲しくも痩せ細り        数多の指たちも        変色してしまった    いや        それは        無心の抱擁であったのか        空を労わりすぎて        自ら指を色づけたのか    そうして        突風でも吹けば        ひとたまりもなく        指を        空に返してしまうだろう    その前のひとときの絢爛        それを        時はじっと見守る        もういいかい        もういいかい        何度となく        時は樹々に呼びかける    夢を掴んだ指は        もう空に返さねば        来たる年に        また        自らの内に        指を回復することは        永遠にできない    ・・・・・・それを        落葉の樹木たちは        ひそかに知っている