ひょうたん夢話 V



木の若芽

伝説工房 今日もまた ららら と歌いながら さあ始めよう 背丈がなんでも半分の町 わたしも足を踏み入れると半分に縮まってしまった この町はどこかのろのろしてて 人の知恵も半分くらいしかなさそうだ そのかわり人の愚かさも半分だけ のろのろのんびりなんとなくいい町 お店にも品物は半分 値段も半分 だからあるもので楽しくやろうよ 昼は仕事の時間も半分 遊びの時間も半分 でも一日は二十四時間 あまった時間は何してるのさ 草木みたいに野山で夢見心地にしてる 野山には草木は半分 動物たちも半分 ちょうどいいすきまとゆとりがある だからけんかがなくみんな仲良し なんでもふつうの世界の半分 そして何より感心するのは 有るものが半分になると 無いものが半分になって ゆらゆらゆったりなんとなくいい気持ち 欲が半分になって 期待も半分になった つまらなそうに思える? その分安心して自然にゆだねるのよ 悲しみ怒り喜びも半分になった つまらなそうに思える? その分幸せに感謝して平和なのよ 半分になった分増えるものがあるはず それがなんだかわかったわ 愛よ 愛 言い伝えにたがわない すばらしい野菜のとれる土地 沼井の泉水の虹色たたえた土地 どんな寂しさも憂いも この幸せの一部になって美しくなる その土地の名をたしかに覚えてきたのに えもいわれぬ青山 ややもする青空を絵にも描いたのに どの本にも見つからない その名も似た風景も わたしの心の中だけの極楽郷だったのだろうか そこには賢いお百姓ややさしい薬草師もいて わたしは彼らに教わって緑の料理をつくり やがて一人で来る人を待っていたのに あの泉水を汲んだ目とそそいだ心は もう今までとはちがう力で彩られたのに その土地は太古の香り 古代の調べに包まれて 言い伝えの中にまた沈んでいった わたしのかごの野菜は 自分たちが食べるためだけじゃなく 鳥たちのためでもある 開けてみると ね あなたはびっくりするけど 数えられないくらい元気なけしどりの子たちが 青菜をついばんでいるでしょう うふふふ 両手にいっぱいみんなをすくえば わたしの手のひらで ふわふわほろほろ 動くよ鳴くよ 生きてるよ歌ってるよ けしどりは細い羽のような水の緑色をした青菜しか食べない だからここだけにしか住めない けしどりの母さんがいつも守ってくれるお礼にと 小山森へ招いてくれた どこにいたのをどうやって呼んだのか仲間が集まってくる そろうまで時間がもう少しかかるようなら 一人で小山森を散歩してこよう すばらしい夕陽が落ちていくよ 木々を鳥羽色に染めて 木の兄 木の弟よ 心の森の奥の奥から とうとう近くへ来てくれたのですね わかっていました 木の芽神社の大木が木の芽を吹き出すころ その下で会うことを 不死身の兄よ あなたは雷に撃たれて谷底に落ちても こうして蘇る いつの世までも 恐れ知らぬ弟よ 悪戯がすぎることがあっても こうして助けに来る どこへでも 深い淵に落とした呼子笛 寝台の下にこぼした酪乳 始まりにまにあわなかった集会 木の兄のなぐさめと木の弟の助けで 乗り越えましょう らくらくと 木の芽神社にまつられている 猿神と鳥神も 神木が木の芽を吹くころ動き出すのです 御神酒の用意をしますから さあ杯をお持ちください 健康な心をもった子供たちを こんなところに長い間かくしていたなんて 真っ白でも監獄は監獄 緑がたくさんあっても病棟は病棟 君たちがくれた孔雀の羽や杏の実の枝は 残念だけれど偽物なのよ だからわたしのあげる木の実を食べて 走る力をたくわえなさい さあ走るわよ 北へ 距離は長いよ しっかりね 北の大木の屋敷に歌上手が自慢の老婆がいる 彼女の詩に耳と心を傾けよう 屋敷のまわりは丹念に刺繍されたような木々と山と雲の景色 荷車を引いた酒売りがやって来たら歌垣が始まる 最果ての地 やさしい灰色の森に旅立つ 切符は片道だけでいいんだ 今までのくせで往復買ってしまった ここが薄暗いのは切符の文字をよく読めなくするため どこにでもいるように どこまでもいて どこにでも現れて どこへでも行ける だからどこにもいないかのようにも感じる わたしを待っているようで 待っているけど 待っているだけじゃなく わたしだけを待ってるのでもない なんにもかまわないようで ほんとにかまわない なんでも受けとめて なんにでも入ってゆく それは光もそう 風もそう 水も木も宇宙もそう 闇もそう 川もそう 火も山も海もそう それと同じようなあり方で いつもいっしょにいる夢人 彼といっしょに行くのに切符は片道だけでいい 歩いていくのは老子(タオ)の道(タオ)だから ここが薄暗いのは夢人の顔をよく見えなくするため 見てないのでも見てるのでもない夢 聞こえないのでも聞こえるのでもない詩 それは老子の道(タオ)のようにすべてのものの内側を結びつける ここを薄暗くする すべての区別をよくわからなくするため やさしい灰色の森の終りのない道(タオ) ゆうべ最初の夢は 木に殺され木と死ぬ怪奇な夢だった 愛するものに殺され 愛するものと死ぬならば幸せだけど その夢の意味がわからないまま 次に訪れた夢は 見知らぬ男が戸をたたき 「ここはわたしが引き受けよう あなたは赤い四辻へ行きなさい」と言う 太陽の赤か わたしの血の赤か 空を見る 雲がもの言いたげに輝いている 自分を見る 健康に肉付き血がかよっている 見違えるほど 情熱に満ちた空 たくましくなった体 今こうなったからには この男の言うとおりなのだ 赤い四辻があるという方へ 半信半疑に行ってみると 一人の青年が立っている 聞けばあの男の弟子だと言う あの男はあの男こそは 詩の聖だと教えてくれる 聖の持つ詩の火の燃えるたいまつがこの辻を照らしているのだった 愛するものに殺され愛するものと死ぬ幸せにより蘇って ついに永遠に愛するものを歌うことができる その力がふつふつと湧いてくるのだ 青年と手を握り合っていると 自分の学校なんだけど 自分のクラスと教室がわからない だから一時間ごとに違うクラスに入って授業を受けた 川辺の木々のことを学んでいる授業で ある少女のことを知った しなやかな体つきとりんとした目鼻だちをしているが 不治の病をもつ しかしきっぱりとその病に断言した おまえを背負うのでなく おまえの背に乗って行く そしてそのとおり 少女は教室の窓から飛び出して 川辺の木々の間へ行ってしまった わたしは洗う 川から上がってきた人々が足をふいて 汚れた敷物を あたりが暗くなってきて 夕餉の時刻が過ぎても もう少しで終るから みんな待っていなくてもいいよ わたしは洗う 文句も何も言わずに こうしている間に夜空に星が出てくるのがうれしくて 少し遠いけれど大好きな場所へ行こうよ 今日だからこそ 今こそ あたたかい土踏んで 熱い砂跳ねて 今日だけは 今だけ 森を後にして 木立を出るの 埴輪色の砂丘が見えてきた 足の裏さらさらすべってなかなか走れない そのおかしさとやって来たうれしさに 声はずませて笑えば 月が顔を出す 月の砂漠で裸になって砂の上に寝る 仰向けになって体を砂の中にうずめる 月の出刻の砂は昼の熱さと夜の冷たさが混じって 不思議な気持ちよさだ 砂浴びをし終えた肌は鳥の羽のようにやわらかい いやほんとうに翼がはえてくる 春さり来ると鳥も翼に新鮮さを取り戻すため 思い思いにこの月の砂漠へ飛んでくる はえてきた翼の丈夫さを確かめて わたしたちは次の旅へ走ってゆくの 世話になった宿のおしでせむしの小男に 羽の一本を残して わたしたちは船へ急ぐの もっと速く走らなくちゃ間に合わない よし さあ 翼を使え まだ覚束ないがわたしは翼を初めてぴんと横にのばす 白かった羽が青緑をおびてきている 待っていた船の乗船口で水夫が大きく手招いている すべりこんだ瞬間汽笛が鳴って 駆けるように船は海へ出た しばらく眠ろう 眠れるかしら 眠るんだ 始まった旅の無事を祈るためにも 埋れていた小部屋を六年ぶりに生き返らせて 落ち着いて端座し和やかにいただく一服のお茶 片隅には白花一輪さし 壁には谷の墨絵をしつらえ 白と海老茶のやわらかな釉の茶碗を両手でつつみ持つ うれしそうな女老主人が言うかつてのその部屋の名は 松露庵 ほんとうによかった おめでとう あなたの切なる願いだった 自然と調和した愛の伝統を暮らしの中に取り戻すことができて このお茶の味わいにその幸せがみなぎっている とても美味しかった ありがとう 庵を辞して緑一面の晴れた丘に立つ どこに行くのかバスを待つ ただ一人見送りに来た若者は バスが来るまで現れては消え現れては消え とどまろうかいっしょに行こうか迷っている バスは遅れているらしい 丘にたくさんつくしんぼを見つけた 筆にもなるし笛にもなると何本か摘んで 楽しく吹き鳴らす バスを呼び若者を呼ぶために 初めてここへ来た時 この大きな木を目印にして わたしたちこの道を行ったね どこで待ち合わせをしようかと言って 迷わずこの大きな木が心に浮かんだのだった あれから何年たったのかわからない すばらしいことを学び 楽しく暮らしたね 毎日この大きな木の下を通って 卒業式は鳥たちが開いてくれるのだった 木の枝に席を見つけて 美しい歌が始まるから 鳥の歌に送られて 通い慣れた大きな木の道の まだ行ったことのない先を目指す たくさんの山門をめぐりくぐる どれも驚くほど大きな木の門だ 力強い彫刻に岩料で彩色をした どれもが世界一と言ってしまうほど堂々とした門だ こんな山の高くにこんな大きな木の門を造った老人たちが 今も住んでいる ちょいと休んで行きなさいと声をかけ 縁台を出してくれた 山には門が無数にある 門をくぐっても森が続き また別の門があるばかり 家も館も寺もない また次の門があるばかり あんたにはわたしの声が聞こえる わたしが見える ここに門があるのがわかる うれしいいね もっと休んで行きなさい 老人たちは子供のようにわいわいと集まってくる 山が笑って愉快な宴になってしまった 北の春は広いな大きいな 緑のじゅうたんに覆われた草原が 美しい御殿の大広間のようだよ 誰かの何かの記念の彫刻が飾られている 見たことのないすばらしい木を寄りそうように植えて ぽぷらと かりんと かつらの木が ひとつに合わさりとけあった 幹は唐三彩の色に 葉は金と赤が女木 紫と緑が男木 明るい空に二本同じ方を見て同じ方へなびきながら 高くすっくと立っている 彫刻も巧みで美しいが その木の下は吟遊詩人の宿りになるばかり 指をやさしく動かしながら 響きだけの歌を楽しげに歌っている 目に悪い光を帯びている人の親切には 用心して 固いお菓子には手を出さない もう少し待てば 目にやさしい虹を持った人が来る 彼といっしょにやわらかいお菓子を食べる すてきな植物園に来た 大きな木の中に入れたり 蜃気楼の花が現れるという 世にもまれな植物園 この日は見学者も多く 彼とわたしは離れ離れになってしまった 木の中の待ち合い広場にすわっていると おかしな格好の黒い小人が宙返り 「あっちだ あっちだ」という声 目をこすり耳をたたいても やはりいるいる 黒い小人が 「蜃気楼の花だ 紫の煙の花だ ぶどうと牛乳 星と水」 なぞなぞみたいな歌をうたい おしりを見せて踊っている 小人の目がよく見えない どんな色でどんな光をしてるのか 悪ふざけなの それとも本当につれていってくれるの 風や光や木に教えてもらうわたし そうか 黒い小人は土の精だ やっぱりついていってみよう 「あっちだ あっちだ」 黒い小人が飛び跳ねる 途中で彼を見つけて 腕をひっぱっていっしょに行けばいいんだ 眠っている時 緑色の牛がわたしの丹田を耕しています 世界中を旅してきた青い瞳の人 きっと最後の国がここでしょう あなたの旅は今ここで終わり わたしがそう告げるようになっていたのです 最初から さあ あなたの伴をしてきた牛を休ませなさい やわらかい草の上で 目の見えない鳥はそれでも飛ぼうとするのでしょう 目が病んで見えなくなっていく猿の子は川にもぐって目を洗ってみるでしょう わたしは目が見えなくなっても美しいところへ行くでしょう けれど木の葉のスープや木の実のパンや木の花のサラダを食べていれば 目はキラキラと星か雫のように保てます 狭い道でたくさんの犬がほえている こわがってはいない こわがってはいけない わたしにほえているわけじゃないから ゆっくり通って行ったら一匹が足にかみついた でも痛くない 遊ぼうと誘ってるんだ 玉けりをしよう 野良犬はみなしごの変えの姿 見破ったわたしに みんな犬の皮をぬいで愛らしい本当の姿を現した さあ それ わたしのパス ほら やあ きみのシュート 一点決まった 腕のない子と足のないわたしが いっしょに自転車に乗る 坂を一気に下って その勢いで一気に上って わああ 空まで飛んでいく 強い風に飛ばされて 巨大遺跡のある高い山の奥へ くずれた石垣と緑の草山をおおって どこまで行ってもそのつづき 降り立とうにも飛びつづき やっと遺跡の名を知りあてた 世界の詩の園だ 果てしなく広い園の廃墟は宇宙までつづく 吹いていく風も道も自由無限につづく まったく大自然というものには感動しないわけにはいかない 詩を歌わずにいられない 腕がなくても足がなくても 飛ぶことができ歌うことができる 自然の中に埋れた園の廃墟こそ 讃美の詩を歌うのにふさわしい 愛してる わたしの言葉 ららるる あなたのメロディー すてきな歌になった 聞こえますか 天よ 聞こえますか 地よ ああ聞こえたようだ ゆっくりと風はわたしたちを下ろしてくれる 園でひっそり詩を編んでいる人が てんてんとそちこちにいるのが見え ここに仲間を見つける 鳥がさえずりを覚えていくように 世界という書物を 自然という絵巻を わたしは覚えていきます すべてが生き生きと書かれ描かれているのは すべてがいのちをもって生きているから 何を食べればいいのか どんな目をしていればいいのか 絵にふれてごらん 言葉をあてはめてごらん 鳥が花の木から緑の木へ飛び移るように 各駅停車の汽車で 野山から谷川へ わたしは訪れます どこにでも友を見つけるのは どこにでも精霊がきっといるから 少しおそろしげな森の屋敷で すてきな本を見つけたら ぱっと明るい緑の園に変わった 知らせに行こう 友達になれなそうな人でも その心の中にあるはずのすてきな本を見つけたら ぱっと親しい人になった 伝えに行こう 雪夢花の日 夜の夢にあらわれた青年に 本当の愛しい人を重ねる 顔姿は違うのだけれど 何の不思議もなく彼と彼は わたしの心の中で出会い近づき わたしが何も言わなくても手をとり抱き合い 一体になるのだった 雪夢花の降り散る下で 山のふもとの村人は 水の龍と火の蛇と祈り闘わなくてはならない 願いがかなうかなわないに関係なく祈り 勝つか負けるかにかかわらず闘う いつもは目に見えない世界で無意識に ただ年に一度は明らかな場で壮麗に 水の龍火の蛇は一体になってやってきた 山の上の穴口から長い巨体をくねたてて 村人は槍をかざし舞いながらまわりをかこみ その血が地に一滴したたりしみこむまで闘う 傷を負わせた勇者は 山上の寺にまつられる 今年の勇者はなんと美しい乙女だった かの乙女にあやかりたいと さまざまな人々が近づいてゆく ほめちぎって乙女をまねし みやげをもってきて乙女のものをねだる 「まねをしてもけっこうです 欲しいものならあげましょう けれどわたしをそっとしておいてください」 しかし村人の足は絶えない とある少女を助けてほしいと乞われ 乙女の食事のひと皿を与えようとしたのに その少女は遅れて来てもものも言わない態度で 皿の上のものを冷たく見ているばかり それを最後に乙女は姿を消した 村は乙女の日記の中に閉ざされて やはり消えてなくなった わたしはこの乙女の生まれ変わりなのです 昔話のような夢をつづって それとそっくりの昔話が実際に伝えられている土地を探して 旅に出ようとしています あの頃のその土地と同じ太陽に照らされて 原始の太陽は今も 太古の太陽はとこしえに いのちの源を照らしている 朝早く起きる人たちといっしょ みんなその日最初で最後の一番澄んだ空気を吸って 今日の王様 朝の女王様の りりしいすてきな顔をしている 子供らは王子様王女様になりたいなら 毎朝早く起きて 空を見ること 鳥を聞くこと 海山を思うこと 草木を愛すること 毎日おこたらずに 夢鳴き鳥を聞いたかい わたしが言えば みみずが鳴くのか 別の人が言う どちらが正しいかじゃなく どちらを信じるか選んでごらん 力のあるものを食べなくちゃ そのトマトとこのトマト どちらも本物だけど どちらが力があるか見分けてごらん 力のあるものを食べて薬なんかいらない 自然の声を聞いて教科書なんかいらない そんな人がいのちの王族になれる わたしに用意されていた家は 入口が低い小さな穴ひとつで それぞれの部屋の入口は高い小さな穴 はったりよじのぼったり大変です でも中は広くて窓も大きい 不便もいろいろあるけど 何より安全で平和です 用意してくれた人は 右を向けば父 左を向けば恩人 後ろから見ると友 前から見ると… まぶしい 木がどこから見ても顔を持つような やさしいしっかりした影をまとった人です 窓辺が一番好きだったけど この家では屋根の上にものぼりたい きっと高いでしょう 海も山も見えるくらい 愛を契りあった鳥のつがいが 一本の小枝の両端をくわえて 巣をつくる場所を探しに来たよ わたしの部屋の窓はそんなふうに集まってきた鳥の巣でかこまれている ベランダにもいつもなにか小さな動物が来ている うっそうとした森の中で ここだけは生き物たちの体が発する明るさでほのかにまばゆい やませみは欲張り 動物ではいたち かれらをたしなめないと ほかの鳥や動物が騒ぎ出す みんな仲良く ほらほら そんなに欲張っちゃだめだめ 鳥や動物にばかりかまっているので 来る人もあきれて行ってしまう けれど呼べばたくさんの家族がいる あなたもふくめて 今日は青緑の体に黄色い頭の鳥が来たよ 妹に教え 金色と白を混ぜたような色のとかげがのぞいていたよ 祖父に話す そんな会話ばかりしているので 来る人もあきれて行ってしまう 今日もたくさんの鳥といっしょ 動物たちもやって来る 丘の上の木々を目じるしに 夢願いながら歩き行けば きっと小人に出会えます 彼の道案内で まず最初に行ったのは屋根のないお城 ここでは誰もが歌うたう 次に行ったのは壁のない聖堂 ここでは誰もが祈る それから行ったのは机のない作業場 ここでは誰もが手仕事をする 鐘が鳴ったよ 食事の時間だ どこにいる人もみんな太陽に向かって ありがとう おめでとう 愛してると祈ろう なんて楽しいんだろう みんないっしょに ひとつのとても単純なことを祈れるのは 小人は実によく祈りよく働きよく歌う その後行ったのは扉のない家 ここでは誰もが笑ってる 丘は土と草でできている 丘にいれば床はいらない そうだった 案内された道と場所ずっと 土と草を踏み歩いていた 手仕事で作った木の食器 レースの敷布 できたてとれたての食事 丘からの見晴らしは コバルトブルー エメラルドグリーン 川と風はどこ それはみんなの心からおこるよ さあ心を流してごらん 丘に川と風がやさしくめぐりだす はこやの山のおみやげは 緑の竹の子 おくらの歯ざわりで味はアスパラガス 春雨ふるとよく生える 春雨にぬれてたくさんとってきた ひ弱な舌にはわからない ひ弱な胃では受けつけない 手足のひょろ長い子は食べられない ビニールやセロハンで包装されたものしか食べられない人のために 安全だとかいくらだとか表示してあげないとだめな人のために どんなふうに食べるのか書いておかないとわからない人のために スーパーマーケットはこれでもかと コンビニエンスストアはあれもそれもと 仕事にきりがない 人のために人のために でも緑の竹の子を食べられない人のためばかり はこやの山はほらあそこ 走って帰りたくなるよ 天才少年に出会った 他の国の言葉を聞いただけで覚えてしまう みんなの人気者でもあった なんの悲しみも悩みも知らない 陰のない少年 わたしは電球を壊して しかられないように隠れて逃げ出してきた 落ちこぼれだから みんなより陰の色が濃い 高名な詩人がやって来る さすがの歓待ぶり 遠巻きに見ているだけのわたしと 詩人の目が合ったのだろうか 彼がわたしを知っている 草そばの打ち方を習いたい 自然詩人の食べ物のひとつ 刻まれた緑の葉は 自然の声の結晶みたいだ さりさり さくさく 白い穀粒粉の中に混ぜられて こねられのばされ 打って裁って きれいな水でやさしく泳がせるようにゆでる 高名な詩人は帰ったの 直接会うなんてできなかった けど喜んでいた わたしを見つけて 象の背に乗って帰る青年に いっしょにどうかと誘われる すてきだ 夕焼けの中象の高い背の上でシルエットになれるなんて だけど遠い異国まで行くんでしょう 途中で降りることはできないんでしょう わたしは待つわ 愛する人の風を この丘で 濃い陰を木のように長く落として 子供の頃住んだ町 アパートのあったところ 荒れた空地のあったところ 今はビルやマンションに変わり 公園がつくられて道も立派になった けれどわたしの目の中では 再び昔に帰っていく風景 その間を行ったり来たりするのが なんとわたしだけではない その驚きの人は 背の高い美青年 わたしにつきまとって あちこちから何かを盗んできてはくれようとする わたしだけの幻の町に入ってくるのはいいけれど ひっかきまわすのはやめて けれどわたしには止められなかった とうとうもとはいないはずの警官たちがやって来て 手当たりしだい町人を疑い調べる 公園の歌会は中断されて 詩人たちは散り去ってしまった わたしは暴れ馬に曲乗りする裸の髪の長い少女に頼み 詩人たちと無垢な町人たちを助け呼び戻すよ 警官たちの後から走り入って来た義山賊に頼み 侵入者たちとその行いの跡をみんな蹴散らすよ そして裸になって踊りまわる わたしだけの幻の町は ますます昔に帰っていく あの古びたアパートの屋上でわたしは踊っている アメノウズメのように