挽歌
写真撮影:須田洋司
瀬本明羅

宍道湖の朝日を ほとんど毎朝撮りつづけていた Sが かつて 私に話してくれました 朝日と湖 これは 曲想と詞の関係に 似ている 詞は 言葉という広い器 そこに 何が盛られるか 何が剥ぎ取られるか それは曲次第 作品に対し 詞は 不満を言えない これは思っていた旋律と違うと言っても 音を持たない詞は 言葉として伝えられない 悲しむべきか 宿命と諦めるべきか・・・・・・ 私は 返す言葉もなく 出来上がった写真を 眺めて 湖面の色の微妙な違いを味わっていました いきなりSは 行ってみようと言い出しました ある秋の早朝 宍道湖の朝日は薄紫に染まっていました するとSは 昨日は淡いピンクだったといいました どの色に染め上げれば湖の色になるのか それが知りたくて 毎朝撮っている そう言いました Sの死は突然訪れました 夥しい数の宍道湖の朝日の写真を残して 湖の色に融けこみ・・・・・・ だから 私も 早朝の湖岸に佇むことが多くなりました 曲想と詞・・・・・・ ほんとに 湖は どの色を好むのか それとも どの色も受け入れるのか・・・・・・ 私は いつしか Sの気持ちのままになっていました そして 1年の時が 過ぎ去って・・・・・・ 今日も朝日が 昨日とは違う色に湖を染め上げています 私は Sが帰っていった湖面に 囁くように モータードライブのシャッターの音を 送りつづけました しかし 何も 湖は答えません